第90章 My Angel
「櫻井さんも牛乳飲みますか?」
「飲む飲む〜」
櫻井さんの影響もあって、風呂上がりの牛乳は僕の日課にもなっていった。
あの日以降も櫻井さんは、上半身裸で首にタオルをかけて風呂から出てきている。
その姿にはだいぶ慣れてはきたけど…
上腕二頭筋とかシックスパックとかおへそとか腰のラインとかは常に視界に入るから、意識的に視線を反らしてしまうことが多くなっていた。
「大野?」
「いや、何でもないです。牛乳、どうぞ…」
「うん…ありがとう」
自分から牛乳飲むか聞いておいてそんな態度をとったら、櫻井さんが気にするだろ。
…ダメだな俺。
「なぁに、しけた面してんのよ。後輩くん」
翌日、社員食堂にいると二宮さんに声をかけられた。
「しけた面なんて…」
この人には何でも見透かされてるっぽいから、タジタジしてしまう。
「そういえば…翔ちゃんも後輩くんみたいにしけた面してたなぁ」
「えっ?櫻井さんが?」
「うん、そう。何か、ホームシックがなんちゃらとか言ってたけど?」
「…ホームシック、ですか?」
「そう。朝ちょっと見かけた時に一言二言交わしただけで、なんのことかわからないけどね〜」
二宮さんはニコッとし、ハンバーグを一口食べた。
「そうですか…ホームシック…」
「まぁ…翔ちゃんって意外と的はずれな時もあるからさ。だけど、そんなとこも…」
「…可愛い、ですよね」
「そうそう。可愛いんだよ、そんなとこもね。仕事の時はそんな素振り見せないけどさ」
「ふふっ。そうですね」
櫻井さん…。
ホームシックって、僕のことですよね。
そんな風に心配してくれて…
いや、心配させちゃって…
ごめんなさい。
そして…
そんなとこもやっぱり愛しすぎます。