第90章 My Angel
風呂に入ってみたものの、さっぱりするどころか余計にドクドクドクドクと体が火照っていく。
元々長湯するほうじゃないけど、からすの行水のごとく風呂から上がった。
洗面台の上には、さっき櫻井さんの部屋で畳んだバスタオルが用意されている。
櫻井さん…。
あの時、半ば逃げるようにしていった僕を櫻井さんはどう思ったのだろう。
悪いことしちゃったな。
僕は一刻も早く櫻井さんに謝りたくなって、急いで着替えを済ませ浴室を出た。
リビングに差し掛かると、ソファーでうたた寝している櫻井さんを見つけた。
さすがに上半身は裸ではなくて、Tシャツ姿になっていた。
僕はソファーには座らず、しゃがみこんで櫻井さんを見つめた。
セットされていないサラサラの髪は前髪がおりていて、あどけなく見える。
上唇には形をなぞるようにして、うっすらと白いものが固まっていた。
ふふっ。
牛乳を飲んだ後、ちゃんと口を拭かなかったんでしょ。
櫻井さんでもそういうことがあるんだって思うと、何だか親近感がわいてきた。
「櫻井さん」
声をかけてみたけど、櫻井さんは目を覚まさない。
「櫻井さん、起きてください」
今度は肩をトントンと叩きながら声をかけた。
「ん〜っ…」
閉じている瞼と口が歪む。
「櫻井さん、部屋で寝ましょ」
「ん…あ、おお、の…?」
「はい、そうです。櫻井さん、寝るなら…」
僕と目が合うと、櫻井さんは手に持っていたタオルを僕の頭にふわっとかけた。
「…櫻井さん?」
「髪、濡れてるから…」
櫻井さんは体を起こし、僕の髪を拭き始める。
「あの、自分でできますから…」
「いいから、いいから。俺がしてあげたいの」
その声も手の動きもすごく優しくって。
あぁ、僕はこの人のことが…櫻井さんのことが好きだなって。
じわっと熱いものがこみあがってきたんだ。