第90章 My Angel
「大野はここ使って」
リビングに面した白い横開きの扉。
その先には6畳ほどの広さのフローリングの部屋があった。
まず目に止まったのは、淡い水色のカーテン。
その瞬間、この部屋落ち着く…って思った。
ちょっとしたクローゼットは、衣装持ちではない僕には十分な大きさだ。
「大野はさ、普段はベッド?この部屋さ、布団入れるところがなくて」
「布団派ですけど、畳んで隅に置くので大丈夫ですよ。実家でもそうですから」
「へぇ、偉いな。俺なんかよく敷きっぱなしにして、妹に怒られてた」
へへへって笑ってるのも可愛いですけど…
「僕も妹さんみたいに怒るかもしれないので、覚悟しててください」
「げっ。そんなこと言うなよ〜ちゃんと畳むから〜」
慌てて逃げるように窓に向かう櫻井さん。
あはは、子どもみたい。
「そうそう。カーテンさ、妹がいる間は妹が持ってきたものをつけてたんだけど、これはそれまで俺が使ってたやつなんだ。もし大野の趣味じゃなかったら、取り替えていいから」
最初に見た時から思ってたけど、やっぱり今俺が使ってるのと全く同じカーテンだ。
櫻井さんと同じ…
それがすごく嬉しくてくすぐったい気持ちになる。
「大野?」
「これは、このまま使わせてもらいます」
「うん、わかった」
その後、バスルームやトイレの場所を教えてもらった。
思っていたより片付いてるなって印象がある。
「えっと、ここが俺の部屋なんだけど…」
扉は閉められたまま。
見たいけど、開けるの躊躇ってるみたいだし、僕も心の準備が…。
「他のところは見せてもらいましたから大丈夫ですよ。明後日の土曜日に荷物を運んできてもいいですか?」
「OK。本当にありがとな。夕飯、どこか食べに行くか?」
「いえ、今日は帰ります。あ、櫻井さんは食べる物は…」
「ある。あるから大丈夫。駅まで送って行くよ。あ、靴下履かないと…」
さっき脱いだ靴下はソファーの上にある。
だけど、櫻井さんは違う靴下を持ってこようとしたのか…さっきまで閉めていた櫻井さんの部屋の扉を開いたんだ。
「あっ」
「あはは…」
足の踏み場を作ろうと思い、とりあえず自分の部屋に物を押し込めたと話す櫻井さん。
「土曜日、一緒に片付けしますね」
ふふっ。
初日から楽しくなりそうな予感がする…。