第15章 もしも気づいてくれたなら
「あのさ、櫻井。」
「はい。」
「この絵がさ、キスしてる俺の顔だってことはさ。」
ドクンドクン…心臓の音がうるさい。
「もちろん…キスの相手がいるんだよな?」
先生の手が俺の顔に近づいてくる。
何をされるんだろうと思っていると、先生は俺の唇の表面に触れるか触れないかギリギリのところを親指の腹で撫で始めた。
その指の動きと感触。
そして…俺の唇だけを見つめる先生のトロンとした目に体が震えた。
いっそのこと、笑いながら頭でも叩いてくれたら良かったのに…。
唇なんて、人に触れられたことなんてない。
初めて見る先生の表情にもゾクゾクした。
「相手は…俺、です。」
耐えられなくなった俺は、正直に伝えた。
でも、先生の表情は変わらない。
俺も先生から視線を外せない。
「セン、セ…?」
俺の唇を撫でる動きが止まり、先生は視線を俺の目に移した。
「キスしてる俺と櫻井かぁ。シチュエーション的にはさ、どっちからキスを誘ったのかな。」
「えっと…あの…。」
まさかそんな風に聞かれるとは思わなくて戸惑った。
「ふふっ。櫻井さぁ、普通はさ、あの絵を見せるほうが勇気がいると思うけどな。」
「はぁ…。」
「上手いとか下手とか言ってるわけじゃないぞ。」
「はい…。」
「キス顔の俺を描いてさ、それを本人に見せてさ。その相手は自分です…なんてさ。ある意味すごいな、櫻井は。」
「すみません…。」
褒めてるんだよって先生は言ってくれたけど、自分のしたことが今になって恥ずかしくなってきた。