第90章 My Angel
「本当にエスパーなの?」
「んふふ。違うにきまってるじゃないですか」
「だよな、そうだよな。大野がエスパーなんて、誰が言ったんだ。あ、俺か」
…そうですよ、あなたが言ったんです。
櫻井さんは1人でボケ突っ込みした自分自身にツボってしまったようで、アハハッて笑ってる。
表情もやわらかくなってきたし、元気が出てきたのなら僕も嬉しい。
「さっき櫻井さんが“どうしよう〜”って言ってるのが聞こえたんです。食欲もないみたいですね」
「えっ」
「ご飯、全然減ってないじゃないですか」
「そうなんだよなぁ。食事もあまり喉に通らなくてさ。ストレスかなぁ」
そう言われてみれば、顎のラインが少しシャープになった気がする。
「俺、妹がいるんだけどさ。実家よりも俺んちのほうが短大に近いからって居候してたんだよ。家事もほとんど妹がしてくれてたから、俺としては助かってたんだけどね。だけど卒業を機に実家に戻っちゃってさ」
「そうだったんですか」
「妹が来るまではさ、俺もそれなりに家事はしてたよ。でもアイツ、意外と家事が得意でさ。美味しいご飯に慣れちゃってたし、掃除もね…。俺、こんなにできなかったっけ?ってさ」
そっか…
櫻井さんは家事、苦手なんだな。
「あの…櫻井さん」
「ん?」
「妹さんが居候をしてたってことは、誰かが寝泊まりしたり荷物を置くスペースがあるってことですよね」
「まぁ…うん。狭いけどね」
僕には何ができる…?
「櫻井さん、僕が一緒に住みましょうか」
「…へっ?」
「僕も家事、得意なんです」
「大野が…俺んちに…?」
「はい」
「大野と俺が一緒に住む、の?」
「はい」
「本当にいいの?」
「はい。僕がそうしたいって思ったから言ったんです。ダメならダメでいいんです。急に言ってしまったから…」
「いや、その…何ていうか…」
「櫻井さん?」
「…ありがとう」
「あ、はい…」
櫻井さんが恥ずかしそうに上目遣いで言うから…
僕も急に恥ずかしくなってきて、顔がカーッと火照ってきた。
「大野」
「はい」
「俺と…一緒に住もうか」
「はい」
…今まで生きてきた中で、一番緊張した。
櫻井さんの力になれるなら、家事ができるって理由でもかまわない。
僕はそう思ったんだ。