第90章 My Angel
「あ〜っ、どうしよう〜」
社員食堂で昼食を受けとると、聞き覚えのある声がした。
声の主は5つ先輩の櫻井翔さん。
顔よし、スタイルよし、仕事もできる櫻井さんは、会社では高嶺の花的存在で、そこにいるだけでオーラがある人。
でも、実はすごく可愛らしい人だってことはほんの一握りの人しか知らないと思う。
僕も最近一緒に企画を担当することになって、そのことに気づきはじめた。
櫻井さんの隣で慰めるように背中をトントンしている二宮和也さんは、櫻井さんとは同期で幼なじみ。
…羨ましいな。
「ここ、空いてますか?」
「どうぞ〜」
二宮さんが軽快に答えてくれた。
「ありがとうございます」
二人がいるテーブルの椅子に座ると
「おお、の…?」
櫻井さんが正面に座った僕に気づいたようだ。
いつもキリッとしている眉毛が若干ハの字になってる。
…可愛い。
二宮さんは“どう?うちの子、可愛いでしょ?”って顔をしている。
…櫻井さんはあなたの子どもではないですけど、自慢したくなるのはすごくわかります。
「どうしたんですか?悩みですか?」
2個目の唐揚げを頬張りながら聞くと
「どうしてわかったの?もしかして、大野って…エスパー?」
「ゴフッ…」
エ、エスパー?
咀嚼中の唐揚げを噴き出しそうになったけど、何とかこらえた。
「翔ちゃん、元気出てきたじゃん。後輩くんのおかげだね〜」
良かった、良かったって言いながら席を立った二宮さんは、肩を震わせながら食堂を出ていった。
二宮さん…笑ってますよね。
“翔ちゃん”かぁ…。
二人が友達なのはわかってるけど、何だか面白くない。
「そうなんです。実は僕、エスパーだったんです」
櫻井さんにしか聞こえないくらいの声でヒソヒソ言ってみた。