第89章 教室の片隅で
Sサイド
俺が日直だったあの日からあっという間に1週間が過ぎ、今日は地蔵くん…いや、智くんが日直の日。
数日前から俺たちは“翔くん”“智くん”と呼びあっている。
気を抜いた時につい“地蔵くん”って呼んでしまいそうになったことが何度かあって、心の中で“地蔵くん”と呼んでいたことを正直に伝えた。
逆に俺は“母ちゃん”って心の中で呼ばれてたことを知り、親しみのある呼び方にはかなり萌えたけど…面と向かってになるとちょっと恥ずかしかった。
智くんに会いたいな。
早く会いたいな。
そんな時に限って時間が過ぎるのが遅く感じる。
朝食も摂り、学校の支度もできている。
俺はいてもたってもいられなくなり、自宅を早く出た。
学校に到着したものの、智くんの下駄箱にはまだ上履きが入っていた。
俺のほうが先に着いちゃったかぁなんて思いながら教室に入る。
自分の席に座ってみたけど、何だか落ち着かない。
「もうすぐ来るかな…」
席を離れ、智くんの席の近くの壁に張りつき、息をひそめた。
バクバクバクバクと、胸の鼓動が妙に大きく感じる。
ガラガラッと教室の後ろのドアが開く音がして、智くんが中に入ってきた。
本当は目の前に飛び出して“わぁっ”って驚かすつもりでいたんだけど…
智くんの姿を見た途端に動いた体は、愛しい人をギュッと抱きしめていた。