第89章 教室の片隅で
Sサイド
ジャニー先生が使った後の黒板は、チョークの粉で白くなっていた。
次の授業のために黒板を綺麗にするのは日直の仕事。
いつにもまして白いなぁ…
なんて思いながら、黒板消しを上から下に走らせる。
壁に掛かっている時計をみると、休み時間が残り5分を切っていた。
早く地蔵くんのところに行きたい。
でも手をぬくのはイヤだ。
俺はひたすら手を動かした。
黒板が綺麗になり地蔵くんのほうを見ると、いつものように人が集まっていた。
前から行くのはちょっと恥ずかしいな。
どうしようかなと思いながらハンカチで手を拭いていると、教室の前のドアが開いていることに気づいた。
そうだ。
俺はそこから一旦廊下に出て、後ろのドアから再び教室に入った。
目の前には地蔵くんの背中がある。
ポンポン…
「大野くん」
俺は地蔵くんの後ろから肩を叩き、名前を呼んだ。
いや…ね、後ろからなら大丈夫かなって思ったんだけど、地蔵くんの友人たちは俺のほうを向いてるから目が合う、目が合う。
「…こんにちは、櫻井です」
思わず自己紹介していると、どうぞどうぞこっちに…なんて、場所を譲ってくれた。
みんな優しいけど、めちゃめちゃ恥ずかしい。
地蔵くんと目が合うと、クスッと笑っていた。
『じゃあ、俺たち行くね』
地蔵くんの友人たちが教室を出ていく。
ちょっとニヤニヤしてるように見えたのは気のせいかな?
「後ろから来たんだね」
地蔵くんが話し始めた。
「前からは行きにくいなって…。でも後ろからも結構恥ずかしかったけど」
「うん、そうだよね」
「それにさ、どうぞどうぞなんて場所まで譲ってもらってさ。自分の子供が見えるポジションを確保するお母さんぽいなぁって」
「ここからならよく見える、みたいな?」
「うん」
「んふふ。やっぱり…」
地蔵くんは妙に嬉しそうだった。