第89章 教室の片隅で
Oサイド
震えてる指で目尻を拭う母ちゃん。
えっ、泣いてる…?
流石に僕も戸惑った。
そしたらさ、母ちゃん
「似てる?似てた?」
なんてさ、綺麗な顔で僕に笑いかけるの。
もう…
胸にグッときてさ。
二人きりだったら絶対抱きしめてた。
あの絵を僕に似てるって言われたことが、すごく嬉しいなんてさ。
『正解です』ってことなんだよね。
一応確認のつもりで
「僕でいいんだよね?」
って言ってみた。
母ちゃん、不意打ちに弱いのかな。
あっさり認めたあと“あっ、思わず言っちゃった”みたいな表情になったの。
可愛い…
可愛すぎる。
母ちゃんの素直なとこ、本当に大好き。
そうなると…やっぱりね、聞きたくなったんだ。
どうして数学のノートに僕の絵を?って。
そしたらさ、
母ちゃんもあの時のこと、僕と同じように気にしてたんだなってのがわかった。
母ちゃんは目を反らしてしまった相手、僕のことを。
僕は目を反らされた相手、母ちゃんのことを。
「ごめんね」
そう言える母ちゃんは素敵な人だなって思う。
僕は思わず母ちゃんの背中を擦った。
教室にチャイムが響き渡る。
「大丈夫、ありがと」
「僕も大丈夫だから…ありがとね」
「…うん」
「じゃ、行くね」
立ち上がって席を離れようとした僕の制服の袖を、母ちゃんがクイクイッと引っ張った。