第89章 教室の片隅で
Sサイド
ウグッ…
喉が小さく鳴り、目尻が濡れてくる。
俺は急いでそれを指で拭った。
「あ〜っと…うん、ありがとう。あはっ、似てる?似てた?」
「んふふ。うん、似てるな〜って思った」
「そっかぁ、似てるかぁ」
「何か、嬉しそう」
「うん、嬉しい。かなり嬉しい」
すごいよね、
地蔵くんさ、当ててくれたよ。
俺は心の中でノートの絵にそう語りかけた。
「その絵さ、僕でいいんだよね?」
「うん、そう。合ってる」
幸せな気分に浸っていた俺は、素直に答えてしまった。
「へぇ…んふふ」
地蔵くんがニコニコしていることに漸く気づいたんだ。
「どうして僕の絵なの?」
「えっ?」
「いや、どうしてかな〜ってさ」
さっきと同じように、キラキラでワクワクな表情の地蔵くん。
…俺、どうもそれには弱いみたい。
「数学のノートに僕の絵、だし?」
やっぱりキミには敵わないな。
「授業中ね、気づいてたら描いてた」
「似顔絵を描こうとかじゃなくて?」
「うん。数学の授業の前にさ、目が合ったの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「ビックリしちゃってさ、思わず目をそらしちゃったんだけど…」
「うん、そうだったね…」
あの時のことを思い返すと胸が痛んだ。
「目が合ってドキドキしたのもあるけど、目をそらしちゃったからさ。悪いことしたな、大丈夫かなって気になっててさ」
「うん…」
「で、気づいたらさ。ノートに絵が、ね。あの時は…ごめんなさい」
俺が頭を下げると、
「そっか、そうだったんだね。僕のことを想って…」
地蔵くんの温かな手が、俺の背中を擦ったんだ。