第89章 教室の片隅で
Oサイド
数学の授業が終わるとすぐ、友人たちが僕の席に集まってきた。
早速、昨日放送されていたスポーツの話で盛り上がり始める。
チラッと母ちゃんのほうを見ると、ノートを手に今にも立ち上がろうとしているところだった。
10分休みといってもあっという間に過ぎていくし“あとで”って伝えたのは僕だ。
そう思った僕は母ちゃんのノートを持ち、そぉっとその場を離れた。
『どこ行くの?』
「うん、ちょっとね」
今までもロッカーに物を取りに行ったりトイレに行ったりする時には、こんな風なやり取りは何度かある。
だけど今日は行き先が母ちゃんのところって意味では、胸がドキドキしていた。
席で立ち尽くしている母ちゃんは、僕に気づいていないようだった。
あの輪の中に入っていくタイミングでも図っているのかな。
母ちゃんは何か呟いたり百面相している。
その姿が可愛くて笑みがこぼれた時、ちょうど母ちゃんが1歩踏み出した。
僕に気づいた母ちゃんはすごく驚いた顔をしていた。
きっとあの席の主が目の前にいるからなのだろう。
僕の友人たちは僕がいなくても、話に花が咲いているようだ。
抜け出してきたことを伝えると、母ちゃんは嬉しそうにはにかむ。
それを見て僕はまたキュンとしてしまった。
「そうそう。はい、ノート」
胸の高鳴りを感じながら、持っていたノートを母ちゃんに渡す。
何か思いにふけっていた母ちゃんが、慌てながら僕にもノートをくれて、無事に交換することができた。
パラパラっとノートを捲り始めた母ちゃん。
僕は気になっていたあのことを聞くことにした。
「ねぇ、あの絵さ…」
僕の言葉にワンテンポ遅れてから、母ちゃんの表情がサァーッと固まっていく。
さっきまで捲られていたノートが閉じられ、母ちゃんの胸に納められた。
聞いちゃいけないのかな…
頭に一瞬よぎったけど、気になるんだもん。
チラッと見てしまったことは正直に伝えた。
そしてそれが独特なタッチのやつだったことも伝えた。
ガーン、って効果音がつきそうなほど母ちゃんのおっきな瞳が見開く。
そうなると、僕はますます気になってくるわけで…。
わくわくしながら、母ちゃんを見つめたんだ。