第89章 教室の片隅で
Sサイド
可愛い。
可愛いすぎるんだよ。
そんなキラキラでワクワクな表情してさ。
それに…あの絵を見たいって、すごく伝わってくるんだ。
それならば。
「…笑わない?」
おそるおそる聞いてみた。
すると、地蔵くんの表情が引き締まっていく。
「うん、笑わない」
その言葉の力強さに何だか安心してきた俺は、胸に抱いていたノートを机の上に置いた。
俺が椅子に座ると、地蔵くんもしゃがみこんだ。
「心の準備はいい?」
「うん、できてる」
「じゃあ、いくよ」
何事かと思われてしまうような会話かもしれないけど…俺にとっては最大のピンチでもあるんだ。
誰かに見てもらうために描いたものじゃないし、絵は苦手だから。
地蔵くんが見守るなか、俺はノートのページを捲っていく。
そして。
「これ、でしょ」
「うん、そう」
地蔵くんがコクッと頷いた。
「よく見せて」
地蔵くんが…本当に笑わずに俺の絵を見てくれている。
「この絵さ…」
もう何を言われてもいいと思った。
だって…俺が描く絵ってさ、小さな頃からよく笑われてたし。
「何かさ…」
俺はゆっくり目を閉じて、地蔵くんの言葉を待った。
「僕に似てるよね」
とっても…
とっても優しい声色がした。
地蔵くん…
俺ね、
胸とさ、目の奥がさ、ぎゅっとさ、熱くなってきちゃったよ。