第89章 教室の片隅で
Sサイド
『おっはよ〜』
元気な声でクラスメイト3人組が教室に入ってきたのを皮切りに、続けて1人2人と登校してきた。
最初の3人組は、いつも地蔵くんのところにいる人たち。
『あれぇ?おーちゃんがもう来てる〜』
教室に入るなり、地蔵くんの元にやってきた。
…まるで俺のことは目に入ってないみたいみたいだな。
俺がそっと地蔵くんの席から離れていくと
「櫻井くん、ありがとね」
地蔵くんがそう声をかけてくれた。
「どういたしまして」
俺は自分の席がある窓側に向かった。
席につく前に再び窓を開けて風にあたることにした。
数分前までひんやりとしていた空気が、暖かいもの変わっていた。
あはは、地蔵くんに包まれてるみたいだな。
俺は胸に手をあてて、すぅ〜はぁ〜と数回深呼吸した。
気持ちが少し落ち着いた気がして、俺は席に着いた。
数学の授業が始まる。
先生と黒板のほうを見ながら、パラパラっとノートを開いていくと
…あれっ?
さっきまでは感じなかったけど、ノートの手触りがいつもと違うことに気づいた。
これ…俺のじゃないな。
手にしているノートを見て確認したいけど…
違うと気づいてしまったからには勝手に見るなんてこと、俺にはできない。
どうしよう…。
地蔵くんを見ると、閉じたままのノートを手にしながら首を傾げていた。
暫くその様子を見ていると、数秒してから目があった。
朝のことを思い出し、胸が騒ぎ始める。
ふにゃりと微笑んだ地蔵くんが唇を動かして
“あ・と・で”
そうメッセージを送ってきた。
“りょ・う・か・い”
俺も唇を動かしてメッセージを送った。
とりあえず違うノートを取り出して再び授業に集中したけど、2人だけのやり取りにドキドキが止まらずにいた。