第89章 教室の片隅で
Oサイド
ここは朝の教室。
この空間に母ちゃんと二人だけでいられるのも、あと少し。
まだ誰も来ませんように…
そんな風に思っていると
「あの、さ…」
って母ちゃんが囁いた。
切なげなその声が、僕の胸を打つ。
母ちゃんも僕と同じ気持ち、なのかな…なんて。
次の言葉をちょっと期待しながら、僕は母ちゃんのことを見つめた。
だけど。
母ちゃん、ソワソワしちゃって
「えっと…」
ってなかなか言ってくれない。
おっきな瞳を揺らし、ぷっくりした赤い唇の乾きを補うために時々舌がペロッと出てくる。
潤っていく、母ちゃんの唇。
それを見ていたら、触れたくて堪らなくなった。
僕は我慢できなくなってきて…
母ちゃんの唇に自分の唇を近づけた。
お互い身体が震えながら
ちゅっ。
一瞬だけど唇が重なった。
キスだけでも僕の気持ちは伝わったと思うけど、
「好き、だから」
そう言葉にした。
「俺も…好き」
母ちゃんも僕への気持ちを伝えてくれて、顔がカァッと熱くなっていった。
教室の外から話し声や足音が聞こえてくる。
…タイムリミットかぁ。
できるだけゆっくり母ちゃんと体を離していく。
お互いが足元にあるノートを拾い上げると、教室のドアが開く音がした。