第89章 教室の片隅で
Sサイド
音ってすごいな。
抱きしめあうことで生じる制服の擦れる音…
地蔵くんと俺の呼吸する音…
それらの1つ1つでさえも、俺の胸を擽っていく。
「あの、さ…」
俺が声をかけると
「ん?」
って俺のほうを見た地蔵くん。
その顔の距離が思っていたより近くて、すごくびっくりした。
「ねぇ、どうしたの?」
「えっとさ…」
「うん…」
そろそろみんなが登校し始める頃だ。
早く言わないと…って焦れば焦るほど、なかなか言葉が出てこない。
すると、水分量の多い可愛らしい瞳で俺を見つめている地蔵くんの唇が、ちょっとずつ俺の唇に近づいてきた。
えっ…?
お互い震えているのを感じながらも
ちゅっ。
ほんの一瞬だけど、唇が重なった。
「好き、だから」
唇が離れると、地蔵くんが頬を赤らめながら俺にそう言った。
「俺も…好き」
頬がカァッと熱くなる。
足音とガヤガヤした話し声が廊下から聞こえ始めた。
「みんなが来る時間だね」
「そうだね」
名残惜しく思いながらも、地蔵くんと体を離していく。
俺と地蔵くんがそれぞれの足元に近いほうのノートを拾い上げると、クラスメイトが教室のドアを開ける音がした。