第15章 もしも気づいてくれたなら
「で?用事はなに?」
ぶっきらぼうな言い方だけど、いつものこと。
先生の澄んだ声が心地いい。
「あの、これ…センセは何に見えますか?」
俺はカバンの中に入れていた絵を取りだし、先生に手渡した。
「…これかぁ。うーん。」
口を尖らせながら考えている先生は、10コ上になんて見えない、子どもみたいな可愛いらしい表情をしている。
「櫻井。」
「はい。」
「まさかだとは思うけど…。」
…俺は絵心がないって友達には言われている。
「まさかまさかなんだけどさ、これ…。」
どうしよう、ドキドキする。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
「これさ。俺、だよね。」
「………。」
「櫻井?どうした?違うのか?俺じゃないのか?」
「あってます….。」
「ふふっ。当てられてビックリでもしたか?」
「はい…その通りです。」
俺は、先生に当てられてビックリしたのと、正直嬉しかったのと…これから自分が起こすことに対しての不安で、心臓がバクバクしていた。
「どうして、わかったんですか…?」
これは聞いておきたい。
「そうだなぁ。タレ目気味なところ…かな。あとは…口を尖らせてるとこ。」
「はい…。」
「集中してる時とかさ、無意識に口が突き出てるみたいなんだよね~。」
「はい…さっきも考えてる間、そうなってました。」
「なってた?マジか。でもさ、この口さ…ふふっ。“丸みを帯びた英語のE”みたいで、なかなか可愛いよ。」
「英語の…E?」
「うん。それにさ“チューしてる口”にも見えるけどね。」
あははって笑う先生。
やっぱり美術の先生なんだなぁ…と思う。
俺は、ゆっくり深呼吸した。