第89章 教室の片隅で
Oサイド
振り向いた母ちゃんは、僕のことを暫く見ていた。
また視線をそらされたらどうしよう…
そんな不安が頭をよぎり始めた時、母ちゃんが戸惑いがちながらも「おはよう」って言ってくれた。
それがすごく嬉しくて、僕はもう一度「おはよう」って言ったんだ。
母ちゃんと話すチャンス。
そう思った僕は、母ちゃんが窓に手をかけていることに気づいた。
開いている窓から、朝のひんやりとした心地よい風を感じる。
僕はちょっとしゃがみ、母ちゃんの腕の下から外を眺め始めた。
すると、母ちゃんが窓から手を離して空間を作ってくれた。
ゆっくり立ち上がって体を伸ばすと、僕より少し高い母ちゃんとの距離がグッと近づく。
ドキドキドキドキ…
自分でもびっくりするくらい、胸の動きがすごくて。
心臓が飛び出そうって例えを初めて実感したかもしれない。
僕の視線は窓の外に向いてはいるけど、肩が触れてしまいそうな距離にいる母ちゃんに神経が集中している。
「いい風が入るね」
「うん。気持ちがいいよね」
何気ない会話と、母ちゃんからする石鹸のような爽やかな匂いが僕の心をくすぐっていく。
いつまでも一緒にいたいな…なんて。
そう思った途端、僕の中に芽生えてきた思いに気づいたんだ。
…僕は母ちゃんに恋してる、って。