第89章 教室の片隅で
Oサイド
ない、ない、ない…!
母ちゃんと目があった日の夜。
僕は眠る前に、明日の学校の準備をしていた。
「1校時目は数学かぁ…」
ついでに母ちゃんの絵の髪型を描き直そうかな。
そう思った僕は、スクールバッグの中からノートを探したのだけど…見あたらない。
学校に忘れてきたのかも…。
母ちゃんといっても、櫻井くん本人のままな絵。
…誰かに見られたらどうしよう。
僕は気が気じゃなくて、その日の夜は中々寝つけずに朝になってしまった。
学校に早く行けば大丈夫かな。
そんな風に思い、僕は日直の時と同じくらいの時間に家を出たんだ。
教室の前に行きドアに手をかける。
少し開いていた隙間から、風が出てくるのを感じた。
誰かいるのかな、なんて思いつつドアを開けていく。
あっ、あの人は…。
窓の所に立っている人の後ろ姿を見て、胸がビクンとした。
動揺した僕は、ガラガラッとドアの音を立ててしまった。
気づかれちゃったかな…
少し先にいる母ちゃんに。
僕の席はすぐそこにあるけど、立ち止まらずに母ちゃんに近づいていった。
心拍数が早くなるのを感じながら
「おはよう」
って、母ちゃんに声をかけてみた。
きっと声で僕だとわかったのだろう。
ゆっくり顔だけ振り向いた母ちゃんは、ちょっとびっくりしたような表情をしていた。
それがまた可愛らしくて。
どうしよう、どうしようと昨日からモヤモヤしていた気持ちが晴れていき、僕は笑みがこぼれた。