第89章 教室の片隅で
Oサイド
僕の名前は大野智。
この4月から高校生になった。
朝はギリギリまで寝ていたいのと電車通学がイヤで、徒歩圏内の地元の高校に入った。
高校には僕が小中学生の時からの知り合いが何人かいて、ちょっと安心した。
休み時間になると、なぜかそいつらは僕の所に集まってくる。
溜まり場か?って思うけど、みんな楽しそうに話をしてるし、僕は話を聞いて相づちをうってればいいから、ラクといえばラク。
僕の席は廊下側の1番後ろ。
できるなら窓側の席が良かったんだけどな。
外を眺めたり風にあたったりできて、羨ましいなって思う。
ほら、今も。
あの窓側の席の人…櫻井翔くんだっけ。
風で髪がなびいて、気持ち良さそうにしてる。
いいなぁ。
そんな風に思っていたある日。
休み時間になると、視線を感じるようになった。
不快な視線じゃなくて、なんか見守られてる様な感じなんだ。
んふふ。
まるで母ちゃんみたいだな、なんて。
僕はその視線の主を心の中で“母ちゃん”と呼ぶことにした。
それから間もなくして…
僕は気づいてしまったんだ。
母ちゃんの正体が櫻井翔くんであることに。
その日もまた休み時間に、僕の周りには人が集まっていた。
視線を感じてその方向を見ると、優しい表情でこっちを見ている櫻井くんと目があってしまった。
もしかして、キミが…?
その瞬間、バチンッと僕の体の中に電流が走った。
なんだ、これ…。
胸がキュンとしてる。
そんな気持ちに戸惑っていると、母ちゃんが視線をそらして…
今度はなんだか胸がチクンと痛くなった。