第88章 果てない空
パタン…
ドアが静かに閉まる。
「…行っちゃった」
手を伸ばしカギをかけると、玄関にあるビジネスシューズが目に入った。
もしも昨日あんなに疲れてなくて、いつも通り5分でマンションに着いていたら…
櫻井くんに会えてなかったかもしれない。
そういえば櫻井くんの靴、手入れがされてたな。
よし。
「いつもありがとな。後で綺麗にしてやっから」
俺はシューズボックスの奥にしまいこんであった、靴の手入れグッズを取り出した。
朝食を摂った後、いざ靴磨きをはじめたら楽しくなってきて手が止まらなくなった。
今までめんどくさいってイメージがあってやらなかったけど、俺こういうの結構好きかも。
新たな発見をしたことにちょっとウキウキしてくる。
ふと時計を見ると、正午を回り始めたところだった。
遅めの朝食だったし靴も綺麗になって満足した俺は、昼寝でもしようかとベッドに向かった。
「きちんとしてるよな」
丁寧に畳まれている布団。
その上には櫻井くんが着ていたエンジのジャージも綺麗に置いてあった。
「ん?」
ジャージの間に紙が挟まっていて、よく見ると『大野さんへ』と書かれてある。
「見てもいいってことだよな」
少しずつ紙を引き抜いていくと、櫻井くんの連絡先が書いてあるのが見えた。
うわぁ…
めちゃめちゃ嬉しい。
ドッキンドッキンと鼓動が高鳴り、その紙とエンジのジャージを胸に抱きしめた。