第88章 果てない空
フサフサとしたものが顔に当たり、俺は目を覚ました。
あ、そうか。
いつの間にか眠ってたんだ…。
俺の腕の中に収まっている櫻井くんの顔を覗いてみる。
白くて綺麗な肌、長い睫毛、ふっくらしている赤い唇…
その持ち主はまだ眠っているようだ。
「んふふ。可愛い」
櫻井くんの唇が時々むにゅむにゅと動く。
暫く寝顔を見ていると、モゾモゾと動いた櫻井くんのまぁるいおでこが俺の唇に触れた。
「あっ…」
一瞬触れただけなのに胸がバクバクしてくる。
俺は指先で自分の唇をなぞった。
数分経過すると、櫻井くんのまぶたがゆっくり開いてきた。
「んっ…」
「お、おはよう」
「おは、よ…おおの、さん」
櫻井くんの寝起きは、まったりした話し方とニコッと笑う姿が超絶可愛いかった。
「どぉしました?」
「な、何でもない」
うーん…と唸りながら、櫻井くんの大きな瞳が俺を捉える。
「僕のおでこに何か触れたんだけどな…」
「そう?何だろうね」
俺は唇から指を離した。
それと入れ替わるようにして、俺をじぃっと見ていた櫻井くんの指が俺の唇に触れる。
「柔らかいですね、大野さんの唇…」
もう寝起きのぽやっとした感じではなく、意思を持っている話し方。
切なげな表情の櫻井くんにゾクゾクッとする。
気持ちがもう溢れてきてしまいそうだ。
「こんな感じの柔らかさだったなぁ」
「櫻井くん…」
さっきまでは何とか留めておこうと思っていたけど。
おでこにとはいえ、一瞬でも櫻井くんに触れた唇には感触と熱が残っている。
「さっきは不意にだったけど…触れても…いい?」
胸の高鳴りは増し、言葉は震える。
俺を見る瞳を揺らしながらコクッと頷く櫻井くんをぐっと引き寄せた。
おでこがくっついてしまうくらいにある、お互いの顔。
俺は櫻井くんの後頭部に手を回し、ぷっくりした赤い唇に自分の唇をそっと重ねた。