第88章 果てない空
俺には恋人もいないし、アタックしている人がいるわけでもない。
そういう意味では、俺に気になる人ができても周りから避難されることはないとは思う。
もし今、俺が櫻井くんに抱いている感情に躊躇するとしたら…
それは、お互いの家族への罪悪感かもしれない。
…罪悪感?
櫻井くんへの気持ちは悪いことなのだろうか。
同じ男性ではあるけど、今まで知り合った誰よりも俺が惹かれた人。
「ねぇ、櫻井くん」
「…ん?」
俺も櫻井くんの背中に腕を回した。
「今日はさ、このまま…一緒に眠ってもいいかな」
静かな空間だけど、俺の心も体も熱くなっている。
「いいよ。このまま眠ろっか」
落ち着いた声の櫻井くんの体も火照っているように感じる。
俺たちは抱き合ったまま、ゆっくりと布団へ体を横たえた。
「んふふ。ちょっと狭い、かな?」
「もっとくっつく?」
「これ以上くっつけるかな」
「大野さんが僕に足を絡めれば…」
「えっ、俺?言い出しっぺの櫻井くんが絡めてよ」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
「えっ、あっ」
櫻井くんの足が俺の足に絡んでくる。
巻き付くようにして絡まる足は、お互いが離れまいとしているようにさえ思える。
「んふふ」
「ふふっ」
本当は伝えたい言葉が沢山ある。
だけどそれは胸に秘め、代わりにギュウギュウと抱きしめる力に思いを込めた。