第88章 果てない空
まだ知り合ったばかりだというのに、櫻井くんといると居心地のよさを感じた。
俺はベッドへ、櫻井くんはさっき敷いた布団に入っていく。
「大野さん。布団までありがとうございます。シーツの肌触りがいいですね」
薄暗くした部屋の中。
櫻井くんの低めで掠れ気味の声に胸が擽られる。
「んふふ。それは良かった」
俺は声が裏返らないようにと気をつけながら返答をした。
「大野さん、明日は…」
「俺?俺は休みだよ」
「えっ、あ、ごめんなさい。ゆっくり休める日なのに」
勢いよく櫻井くんが上半身を起こす。
「元々声をかけたのは俺なんだし、気にしないで」
「でも…」
「本当に大丈夫だから」
俺も体を少し起こして手を伸ばし、櫻井くんの頭をポンポンした。
…安心してほしくてとった行動だったのだけれど。
櫻井くんの頭に触れた手から次第に体が熱くなっていく。
「大野さん?」
いつまでも頭から手を退けない俺に櫻井くんが呼び掛けた。
「櫻井くん、さっき…」
「さっ、き?」
「俺が抱きしめた時…イヤじゃなかったって…」
「それ、は…突然でびっくりしたけど、何だか落ち着けたっていうか…」
「櫻井くん…」
俺はベッドから降りた。
櫻井くんの正面に立て膝をすると、櫻井くんも同じ姿勢をとった。
「櫻井くんは今まで、男同士で抱きしめあったことは…ある、の?」
「友達と喜びあったり慰めあったりした時になら…あります」
「じゃあ…」
「はい」
「相手を愛しく思ってそうしたことは…」
「それは…ない、かな。よくわからないけど」
「俺は…俺自身びっくりしてるんだけどね、さっきは…櫻井くんのことが愛しくなって…ね」
「大野さん…僕も…」
櫻井くんの腕が俺を包んだ。
「僕も大野さんのこと愛しく思って、いま抱きしめてます」
その声も胸の中も、とても暖かかった。