第88章 果てない空
扉の向こうからシャワーの音がしてくる。
「布団…敷こうかな」
俺はゆっくり立ち上がり、部屋に向かった。
さっき受け取った櫻井くんのスーツは仕立てが良く、靴を揃えるなどの行いからしても俺とは釣り合わない人なのかも…なんて考えが頭をよぎる。
ベッドの下に布団を敷いて淡い水色のシーツを伸ばしていると
「大野さん、シャワーありがとう」
開いていたドアから櫻井くんがひょっこりと顔を出した。
「あ、うん。俺もシャワーしてくるから、良かったらコレに着替えてて」
布団と一緒にしまってあったTシャツとエンジのジャージ上下を櫻井くんに渡した。
「えっ。着替えまで…いいの?」
「うん。Yシャツとスラックス姿じゃ、眠りにくいでしょ」
俺の言葉を聞いた櫻井くんは、うん…と頷いて困ったような表情をした。
「もしかして…その格好で寝ようとしてたの?」
「いや、その…。とりあえずこれを着ておいて後で考えようかなって」
「んふふ。もう解決したね」
「うん、ありがとう」
白い歯をキラッとさせながら爽やかな笑顔でお礼を言われて、胸がまた苦しくなった。
シャワーを浴びた俺は、色違いの青いジャージを着た。
「お揃いじゃん…」
ちょっとにやけてしまいながら部屋に向かっていると、タイミングよく櫻井くんが部屋から出てきた。
「音がしたので…大野さん?」
「いや…ジャージ、似合ってるね」
「そう?やった」
櫻井くんが小さくガッツポーズをした。
控えめに、なところが櫻井くんらしくていいなって思う。
「そんなに嬉しいの?」
「だって…よくね、シルクのパジャマでも着てるんじゃないの?って言われるから」
「シルクのパジャマ?そうだなぁ…イメージ的にはそうかもしれないね。だけど、ジャージ姿も様になってるよ」
「本当?大野さんもよく似合ってる。…あれ?色違い?」
「あははははっ。今気づいたの?」
「…うん。そんなに笑わないでよぉ」
櫻井くんと俺が釣り合わないかもなんて…そんなことはもう頭にはなくなっていた。