第86章 俺のチョコレート
女の子たちは「お兄ちゃんも頑張ってね〜」って帰っていった。
俺たちはゆっくりと歩きはじめた。
「櫻井。チョコってさ、どうしたの?」
「それは…」
「もらったものを交換なんてしないと思うしさ。自分で買ったの?」
「はい、買いました。だけど、もういいんです」
「もういいって…どうして?」
櫻井が歩みを止めて俯いた。
「もらいたい人がいないみたいなんです、その人」
「えっ?」
「だから、もういいんです」
もらいたい人がいないって、たしかさっき…。
「ちょ、ちょっと待って。それってさ…俺のこと…?」
櫻井は下を向いたまま唇を噛みしめている。
「ねぇ、話聞いてくれる?さっき言ったのは、声をかけてくれた人の中に俺がチョコをもらいたい人がいなかったっていう意味で…」
櫻井が瞳を潤ませながら俺に視線を向けてきた。
「その中に櫻井がいたら…その…」
「…僕がいたら?」
「受け取った」
「…ホントに…ですか?」
「ホントにホント」
櫻井の頬がほんのりピンクに染まっていった。