第86章 俺のチョコレート
櫻井がカバンの中からチョコレートを取り出す。
「あはは。思ってたより箱がヘコンでるし、破れてるじゃん」
「そうなんです。目の前で泣きそうになってるの見たら、思わず取り替えてあげたくなって」
「チョコさ…俺にくれるはずだったってことだよね」
「はい…ダメもとで買ってみたんです」
「ダメもと?なんで?」
「なんでって…。大野先輩モテモテだし、彼女さんいるのかどうかもわからなかったし。だから…」
「んふふ。それでもチョコを渡したかったくらい…」
「好き」
呟くように言うから…
うわっ。
今の言い方、グッときた。
「俺も好きだよ、櫻井のこと」
櫻井は目をまんまるくしてるんだ。
「あはは。キョトンとしてるし。こんな印象派、他にいないでしょ」
「印象派って…」
「俺には櫻井の行動の1つ1つがね、胸にくるの。ほら〜っ、耳まで真っ赤になってる」
「からかわないでください。意地悪言うならあげません」
「ごめんなさい。チョコ、ください」
しょうがない人だなぁなんて言いながら、櫻井はチョコの箱を開けている。
「はい、どうぞ。一緒に食べましょ」
「ん。おいひいな、しゃくりゃい」
「はい。おいひいれすね、おおにょへんぱい」
「しゃくりゃい、チョコついてりゅ」
櫻井の唇に、ちゅっ。
「んっ…」
優しさと甘さいっぱいの美味しいチョコレート、いただきました。
END