第84章 大好きのキス
だいしゅきのちゅっ。
俺はこの時「ありがとう」って言っていいものなのか迷ってしまった。
絵本の真似なんだろうけど、唇にちゅってされて、ちょっとびっくりしたし…。
「しょ、ちゃ…?」
黙ってしまった俺を見て、不安になってしまったのだろう。
智くんは俺の顔色をうかがうようにしながら、そぉっと手を握ってきた。
暖かくて小さな手。
俺に起きてほしかった、真っ直ぐな気持ちが可愛くてたまらない。
その反面、気配を感じた時に目を開けなかった自分に対してのモヤモヤもあった。
唇へキスさせてしまった、罪悪感のような…。
「しょちゃん?おててあったかねー」
そんな俺の気持ちを智くんの声が和らげてくれたんだ。
「智くん。お姫様もね、王子様のこと好きだよ」
「ほんと?しょちゃんは、しゃとのことしゅき?」
「翔もね、智くんのこと大好きだよ」
俺は俺の手を握っている智くんの手を包み、ぷっくりしたほっぺたにちゅっとキスをした。
「智くん。これもね、大好きのちゅっだよ」
「ほっぺにちゅっ、なの?」
「うん。智くんもしょちゃんもね、まだ子どもだからね、ほっぺにね」
「んふふふふ。しょちゃん、ありがと」
「うん。智くんも、ありがとね」
その後もお兄ちゃんと弟のように過ごしてきた俺たち。
お互い恋愛感情はあるものの、翔7歳・智3歳の時のまま…ほっぺたへのキスから先に踏み出せずにいる。