第84章 大好きのキス
「しょちゃん、おめめおっきーの。おくちあかいなの。かーいーの。おひめしゃまとおなじなの」
「あ、ありがと」
「しょちゃんはおひめしゃまねー、しゃとはおうじしゃまよー」
たしかに智くんと同じくらいの頃は、よく女の子と間違われてたけど…。
「智、帰るわよ〜」
「はーい」
お母さんの声に反応した智くんが、絵本を持ちながら俺の足から降りていった。
「しょちゃん、ばいばい」
「うん、ばいばい」
あっさりしてるもんだな…
俺のこと、あんなに熱弁してくれてたのに…。
さっきまでの温もりがなくなり、何だかポッカリ穴が空いたような感じがした。
その2日後。
俺は友達と一緒にプールへ行き、夕方になる前に帰宅してすぐお風呂に入った。
ベッドに横になりながら智くんが来るのを待っていたけど、疲れていた俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
「…ちゃ」
ん…?
「しょ、ちゃ…」
だれか…いる…?
何となく呼ばれている気配は感じたけど、眠くて眠くて。
「しょちゃん」
さと、しくん…?
「しょちゃん、おっきして」
やっぱり智くんだ。
そう思った時…
唇に柔らかいものが触れた。
「しょちゃん、おっきよ」
顔に息がかかるのを感じた俺は、ゆっくりと目を開けた。
目の前には智くんのドアップ。
俺と目が合うと、
「しょちゃん、おっきしたねー。しゃと、ちゅっしたのー」
嬉しそうに話す智くん。
「智くんが、ちゅってしたの?」
俺の唇に触れたのは智くんの…?
「そうよー。おうじしゃまがちゅっしてーおひめしゃまおっきなの」
あぁ、そっか。
智くんはあの絵本のお話と同じことをしたのか。
そして俺の耳に手をあてて、内緒話をするように言ったんだ。
「おうじしゃまね、おひめしゃましゅきなの。しゃともね、しょちゃんしゅきなの。だいしゅきのちゅっしたの。」