第84章 大好きのキス
大野家がウチのお風呂に入るようになってから3日目。
お姉さんがお風呂に入っている間、先にお風呂を済ませていた智くんがリビングのソファーに座って1人で絵本を見ていた。
「智くん、何を読んでるの?」
「あ、しょちゃん。しゃとね、しらゆきーめみてうの」
「しらゆきーめ?あっ、白雪姫?」
「うん。しょちゃん、いっしょにみよー?」
「いいよ、一緒に見ようね」
俺が智くんの横に腰かけると、片手に絵本を持ちながら智くんが俺の足の上に座りはじめた。
智くんにとってはいつもの日常なのかもしれないけど、小さな子を足に座らせるのは俺にとっては初めてのことで…ちょっとドギマギしてしまった。
動くとバランスが崩れそうになるから、後ろから智くんを片手で抱き抱えるようにした。
智くんと一緒にもう片方の手で絵本を持つと、智くんがペラペラとページを捲りはじめた。
「しらゆきーめね、ねんねーって。おっきしないの」
開いているページの場面を教えてくれる智くん。
「白雪姫が起きないんだね」
「うん。おっきしない…」
智くんが後ろにいる俺のほうに振り向いた。
その瞳がいつも以上にウルウルしていて、何だか胸がジーンとしてしまった。
「しょちゃん。おうじしゃま、しってう?」
「王子様?うん、知ってるよ」
俺がそう言うと、智くんは再び絵本に視線を向けた。
「えっとねー。ココ、おうじしゃまー」
2ページほど捲り、智くんが王子様を指差す。
「おうじしゃま、かっちー。かっちーね」
さっきまでウルウルしてたのはどこへやら。
「そうだね。王子様カッコいいね」
「しゃと、おうじしゃましゅきー」
「あはは。そうなんだ」
「しょちゃんはね、おひめしゃまみたいねー」
えっ…俺、お姫様みたいなのか…?
「しょちゃん、かーいー。おひめしゃま、かーいー」
あっ、そういうこと…?