第84章 大好きのキス
櫻井家と近所に住む大野家には子どもが二人いて、母親同士と同級生の姉同士も仲が良かった。
17年前…俺が小1の夏休み。
大野家の給湯器が故障して、1週間くらいウチのお風呂に入りにくることになった。
3歳になる男の子がいるのは知ってたけど、まだ会ったことはなかった。
「お世話になります」
大野家のお母さんとお姉さん、そしてお母さんの後ろに隠れてしまっている小さな男の子の3人がやって来た。
お母さんのズボンをキュッと握っている小さな手が可愛い。
俺はしゃがみこみ、指先でツンツンとその手に触れてみた。
それでも顔を見せてくれなくて…怖がらせちゃったのかなって思っていると、
「翔くん、大丈夫よ。この子、照れてるみたい」
そう言われてちょっとホッとした。
「ねぇ智。翔お兄ちゃんがお顔見せてだって」
「しょ、ちゃ?」
可愛らしい声が聞こえてくる。
「さとしくん、よろしくね」
俺もゆっくり話しかけてみた。
そ〜っと動き始めたふわふわ頭。
現れたのは、垂れがちでウルウルしている瞳のぷっくりしたほっぺたの子。
「うわぁ可愛い」
思わず笑みがこぼれてしまった。
暫く俺の顔を見た後、お母さんから離れた智くん。
その小さな手が俺の手に触れる。
「しょちゃん、しょちゃん。かっちーね、かーいーね」
一気に話してから、ふにぁ〜っと微笑んだ。
「あらあら、智ったら。翔くんのこと“カッコいいね”“可愛いね”だって」
「翔は智くんに気に入られたみたいね」
俺の手をキュッと握る智くんの手から、俺より体温が高いんだなって伝わってきた。
自分よりも小さな男の子。
智くんは自分の弟ではないけど…すごく愛しく思った瞬間だったんだ。