第82章 Dear Snow
店員さんに案内された席には、座ってる人が1人いた。
面影のあるその人も、俺と同じようにビックリした顔をしている。
「さ、さ…智くん…?」
「しょ、翔くん…?」
会いたいと思っていた初恋の翔くんが目の前にいる。
俺は震える手で椅子を引き、席に着いた。
胸がいっぱいだし、目にはうっすらと膜が張っていて顔をよく見ることができない。
「ずっと…ずっとね、翔くんに会いたかった」
漸く絞り出すように発した言葉も、僅かに震えてしまった。
「俺も智くんに会いたかった」
大きな瞳とぷっくりした唇はあの頃と変わらないけど、翔くんも大人の男性に成長していた。
どうしよう、心臓がバクバクしている。
翔くんと同じようにホットコーヒーを注文したけど胸がいっぱいで…ちびちびっとしか喉を通らない。
翔くんも同じなんだろう。
カップに口をつけるものの、コーヒーの量があまり減ってはいなかった。
「どうしてここに?」
「俺と同じ名前の“櫻井翔くん”…翔ちゃんにね、誕生日のお届けものがあるって言われて…」
「俺もね、もう1人の櫻井くん…俺、その子の家庭教師してるんだけどね。お届けものがあるからって、ここに」
「俺、5年前に日本に戻ってきてさ。それで…3ヶ月くらい前かな。歯医者さんで翔ちゃんと一緒になって。同姓同名なんですねって意気投合して。」
「櫻井くんが、俺たちを結びつけてくれたんだ…」
「うん、そうだね。翔ちゃんの家庭教師って、智くんだったんだね。さすがに先生の名前までは聞いてなかったから…」
話しながら唇を指で撫でる翔くん。
あぁ、そうだったなぁ…翔くんの癖だったなぁって懐かしく思った。