第82章 Dear Snow
櫻井くんがココアを俺の前に置く。
「で?どうなんですか、先生」
いや、そんなに目をキラキラされてもなぁ。
澄んだ大きな目で見られてるから…
はぐらかすことはできそうにないと思った。
「恋人はいないよ」
「そっか…いないんだ…。気になってる人は?」
櫻井くんが真剣な表情で俺を見ている。
「うーん…。10年近く忘れられない人がいるけど…どこにいるかも連絡先もわからないから…」
「名前は覚えてるの?」
「覚えてるけど…」
「なんて名前?」
俺はドキッとした。
言っても…いいのかな。
「俺ね。先生と同い年くらいの人とさ、何人か知り合いなんだ。だからさ、少しでも役に立てたらなって」
「…しょ、う」
「えっ?」
「偶然なんだけどね。櫻井くんと同姓同名なんだ、その人」
「櫻井翔?」
「うん。“翔くん”って呼んでた。高校生の頃なんだけどね」
「うわっ。名前も同じで今の俺と同い年くらいの頃かぁ」
「うん…」
「俺の名前聞いた時、ビックリしたでしょ」
「うん…。俺のこと“智くん”って呼んでたあの翔くんとは別人なんだってわかってても…ね」
「そっか…。いつかさ、その人に会えるといいね」
櫻井くんの言葉と声が優しいから…
胸がいっぱいになった俺は、コクっと頷くことしかできなかった。