第82章 Dear Snow
あまりにも見つめていたからだろうか。
櫻井くんが、ん?と首を傾げた。
なぜか俺もつられて、ん?と首を傾げてしまった。
この後、どうしよう…。
「あらあら、気が合いそうで良かったわ」
にこやかに話すお母様に救われ、正直なところホッとした。
櫻井くんの部屋は散らかっているからと、リビングで勉強することになった。
「散らかってるわけじゃないよ。欲しいものが手に届く位置にあるだけだし…俺には効率がいいんだから」
口を尖らせながら拗ねる姿は、まだあどけない。
「こんな子ですけど、よろしくお願いしますね」
「もういいから〜」
「はいはい」
仲むつまじい会話が、俺の緊張を少しずつとかしていってくれた。
「うわっ。先生の字、めっちゃ綺麗」
前のめりになって手元をのぞきこまれると、距離がぐんと近くなる。
普段はドキドキしないのに…やっぱり同姓同名ってのが影響してるのかな。
俺自身が集中できないなんて。
櫻井くんからしたら、いい迷惑だよな。
「先生、どうかした?」
「いや、どうもしないよ?」
「あはは。さっきから百面相してるよ?面白いから、つい見いっちゃった」
「百面相?」
「うん。こんな顔だったり、こんな顔だったり…」
その度に櫻井くんが俺の顔真似?をしてくれた。
目だけ上を見たり、口を尖らせたり、口を半開きにしたり。
「そんな顔してたかぁ…」
「はい。俺、結構緊張してたんですけど、和ませてもらいました」
爽やかな笑顔。
白くて大きな前歯も翔くんみたいだなんて。
櫻井くんの中に垣間見える翔くんを見つける度に、櫻井くんに悪いなって思って…胸が苦しくなった。