第82章 Dear Snow
今日は初めて櫻井家を訪れる日だ。
櫻井翔くんに会えるのが楽しみな反面、色々錯覚してしまうのではないかと怖くもある。
ピンポーン…
緊張し震える指先で、何とかチャイムを鳴らした。
3秒ほどしてからだろうか。
「はい」
男性の少しハスキーな声がした。
「こんにちは、大野と申します」
「大野さん…あ、はい。今開けます」
俺は1歩後ろに下がり、その時を待った。
ゆっくりと玄関のドアが開いていく。
まず先に見えたのは、サンダルにストッキング、ロングスカートの足元。
その次に見えたのは、スリッパに白のスクールソックス、チェック柄の制服のズボン。
俺は目立たない程度に深呼吸した。
「寒い中、ありがとうございます。さ、どうぞ」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
ドアを開けてくれたお母様に一礼し玄関の中に入る。
今お母様は俺の後ろにいるから、チェック柄の制服のズボンを履いたキミと俺の間を遮るものは何もない。
後ろでパタンとドアが閉まる音がする。
俺は視線を上げて、目の前にいる男の子を見た。
トクン…
初恋の翔くんと同じように、大きな瞳とふっくらした赤い唇が印象的な綺麗な顔立ちをしている。
「大野先生、初めまして。櫻井翔です。宜しくお願いします」
顔も声も何となく似ていて…
初恋の翔くんを思わせるようなキミから、俺は目をそらせずにいた。