第80章 キミがいるから
Sサイド
ツナマヨ…
あの人の声に反応してしまった俺は、お弁当コーナー横のおにぎりの棚を思わず見てしまった。
最前列の中央にあったソレを1つ手に取り、目の前に差し出したけど何も言ってくれなくて…
余計なことしちゃったかなって思った。
棚に戻そうとしたら、ソレをくださいって言われてホッとした。
そうして、再び差し出したツナマヨのおにぎりだったんだけど…。
どうしよう、この状況。
おにぎりを受けとると思いきや、俺の手ごと掴まれて戸惑ってしまった。
俺が声をかけて、やっと気づいたようだったから…無意識にだったのかな。
触れられて嬉しかったし、このまま離さないで欲しいなんて思う気持ちも正直あったんだけど…
俺を呼ぶ店長の声がして、あの人の手が俺から離れていく。
それが妙にさみしく感じた。
「明日も来ますね…櫻井くん」
その言葉にドキンとした。
明日も来てくれるなんて、顔をまた見れるのはもちろん嬉しい。
それに…
“櫻井くん”って言われた…。
初めて名前で呼ばれてびっくりした。
「待ってます」
なんて言いつつ、名前を呼ばれたのがやっぱり嬉しくて。
はぁ〜もう。
捕まれた手はまだ温かくて、顔も火照ってる気がする…
俺の胸の鼓動は高鳴るばかりだった。