第79章 キミが作ったクリスマスケーキ
「これって…」
「うん…かき混ぜ過ぎちゃったの…」
ボールの中には、分離してしまっている生クリーム。
俺も、小学生の頃に経験したことがある。
んふふ…
「何で笑ってるんだよぉ…」
翔が泣き顔をしながらぷぅっと頬を膨らませる。
「ごめん、ごめん。俺もさ小さい頃、失敗したことがあるんだよ」
「しゃとくんも?」
「うん。段々生クリームができてくるのが嬉しくてさ、あと少しあと少しってかき混ぜてたら分離しちゃって」
俺はボールをカウンターに置き、翔の手を引いて立ち上がらせた。
おっきな瞳が潤み、長い睫毛は濡れ、鼻の頭がほんのり赤い。
「翔、ありがとう」
俺はまだヒックヒックしている翔を優しく抱きしめた。
「生クリームさ、足りないといけないからって多めに買っておいたの覚えてる?」
数秒経った後、翔がコクっと頷いた。
落ち着いていれば、予備があることはすぐにわかったであろうに…よっぽど混乱してたんだろうな。
「もう1回作ろう、ねっ?」
「しょおが作る…もう1回やってみていい?」
「うん、いいよ」
翔が作り直した生クリームを味見させてくれた。
「んっ。甘さも固さもバッチリだよ」
「ホント…?」
まだ不安そうに翔が俺を見る。
「蕩けそうに甘くて…翔みたい…」
赤くてぷっくりしているイチゴのような翔の唇にちゅっ。とキスをした。
「ちょ、ちょっとまだ完成してないから」
照れながら、翔がスポンジに生クリームを塗っていく。
所々まだらになってるのが翔らしいなって思った。
生クリームを塗り終え、小さく割った板チョコとマーブルチョコを散らばせてる翔。
首を傾げたり頷いたり。
コロコロ変わる表情を見ているだけで、幸せな気持ちになった。