第77章 耳をすませば
『俺たちももうすぐ卒業だし、今のままでもいいかなって思ってたんだけど…』
櫻井は言葉をつまらせてしまった。
緊張しているのが伝わってくる。
「ねぇ、櫻井」
『は、はい』
「んふふ。明日さ、誰よりも早く教室に来れる?」
『あ、うん…大丈夫だけど』
「じゃあさ、明日…顔を見て話そうか」
『うん…俺もそうしたい』
「じゃ、明日」
『うん、明日』
「おやすみ…」
『おやすみ…』
はぁ…
今になって胸はソワソワ、気持ちはフワフワして…どうにも止まらない。
俺は自分の体を抱きしめるようにしてベッドに入った。
「いい天気だなぁ」
わたあめのような美味しそうな雲がポンポンと散りばめられている青空を見ながら学校へ向かう。
廊下側の前から4番目の俺の席で櫻井を待った。
近づいてくる足音と息づかい。
教室に入ってきた櫻井が、膝に手をついてハァハァしている。
いつもと同じ光景に気持ちが和らいだ。
「あっ」
俺と目が合い、びっくり顔の櫻井。
おっきな瞳が落ちそうじゃん。
「櫻井、おはよ」
「お、おはよう…大野くん」
先に着いたと思ったのにぃ〜なんて言いながら、櫻井は俺の前の席に座った。
「昨日は眠れた?」
「なかなか寝つけなくて、寝坊するかと思った」
「あはは。あっ、寝癖ついてる…櫻井がさ、珍しいな」
櫻井の髪に伸ばした手で、ピョンと跳ねてる部分を撫でた。
ビクッとする櫻井に気づき、手を引っ込めようとしたその時。
「髪を撫でてもらうのって気持ちいいね」
まぶたを閉じて気持ち良さそうにし始めた櫻井。
その顔が可愛くて愛しくて堪らなくなって…
「櫻井」
名前を呼ぶ声に目を開けた櫻井を見つめながら、ゆっくり顔を近づけていった。