第77章 耳をすませば
櫻井はどんな気持ちでメールを打ったのかな。
そんなことを考えていると、再び着信音が鳴った。
今度は櫻井からの電話…。
メールの時よりもドキドキしてきた。
「もしもし」
手も声も少し震えてる気がする。
『もしもし…大野くん?』
「うんそう。えっと…櫻井、メールありがとな」
『あ、うん』
それから少し沈黙が流れた。
『なんかさ、電話で話すのって緊張するね』
「んふふ…たしかに。櫻井の声がさ、いつもよりも低くて落ち着いてる気がする」
『そ、そう?大野くんの声も…なんか、いつもよりも大人っぽい』
「そう?」
『うん。でも俺、いつもの大野くんの声も好きだよ」
「あ、ありがとう」
“好き”っていうフレーズに胸がぎゅっとする。
『あの…最後の…見た?』
「あ、うん…見た」
『そ、そうだよね』
はぁ…と櫻井が小さく息を吐いたのが聞こえた。
「なんか…ごめんな、色々…」
『えっ、あ、あぁ…うん。色々びっくりすることが多かったけど…だ、抱きしめられたりとか…ね』
心臓がバクバクする。
『別れ際に囁くとか…ね』
顔もカーッと火照ってきた。
全部、自分が櫻井にしたことなんだけど…。
『俺は嬉しかったけど…ね』
「えっ」
再び沈黙が流れる。
ドキドキと心臓の音は増すばかりだ。
『俺、後悔したくないから…思うように動いてみようって決めたんだ』
「進路先のこと?」
『うん、それもある。俺ね、学校が遠くなったらさ、家の事とか祖母の事とか…そこにかける時間が少なくなるんじゃないかって…家族に申し訳ないなって思ってたんだ』
「うん…」
『だけど、そこまで気にする必要はないって皆が言ってくれて…。だからね、受験はこれからだけど、ひとまずその部分は担任にもね、伝えようと思う』
「そっか…俺もちょっと安心した」
『ありがとう。それでね…大野くん…』
櫻井の言葉に、俺の喉がゴクッ…と鳴った。