第77章 耳をすませば
「なぁ、櫻井」
「なに…?」
「アドレス教えて」
「アドレス?いいけど…」
俺たちはお互いのアドレスを交換した。
「何かあったら…何もない時でも…気が向いた時でもいいから、連絡して」
「あはは、わかった。メールするよ」
「でっ、電話でもいいからっ」
「うん、わかった」
しつこく言う俺に、しょうがないなぁって表情をする櫻井だけど、ちょっと笑ってくれたから何だかホッとした。
「俺、こっち」
「俺はこっち」
櫻井とは電車の行き先が逆方向なようだ。
改札を入った所で別れ、お互い乗るホームに向かった。
向かいのホームに立つ櫻井。
電車がどっちにも到着した。
いつもなら空いてる席に座るけど、今日は見向きもせずに奥のドアの所に立った。
櫻井もドアの所に来ていて、お互い小さく手を振った。
開いていた後ろのドアが閉まる。
俺は咄嗟に“すき”と口を動かした。
櫻井は首を傾げる。
俺はもう一度“すき”と口を動かしてみた。
電車が動き始める。
ゆっくり離れていく視界の先に、目を見開き手で口を押さえている櫻井の姿が微かに見えた。
気づいてくれたかな…。
帰宅して夕食と風呂をすませベッドでくつろいでいると、スマホが鳴った。
櫻井からのメールだ。
櫻井からもらう初めてのメール。
ドキドキしながら開いてみる。
『今日はありがとう。靴下すぐ脱いで、お風呂に入ったよ。大野くんは暖かいね。』
んふふ…報告かよ。
“暖かいね”なんて、かなり照れる。
何気なくスクロールしてみると
『あの時、なんて言ったの…?』
ずっとずっと下の方に、そうメッセージが入っていた。