第77章 耳をすませば
「いなくなる…って、何でそんなこと…」
櫻井の体と声は僅かにだけど震えていた。
俺に悟られないようにしてるのかと思ったらいたたまれなくなって…俺は櫻井を抱きしめる力を強めた。
「だってさ、こんな時期になっても進路先がまだはっきりしてないなんて…なんかあったんだろ?」
「その事、ずっと気にしてくれてたの?」
「“一緒に卒業したい”って言ってたヤツがそんなんじゃ、不安にもなるじゃんか…」
「ごめ、んね」
櫻井はそう言って、フゥっと深呼吸した。
俺も櫻井を抱きしめていた腕を緩めた。
櫻井が大まかにだけど話をしてくれた。
母方の祖母が県外で一人暮らしをしていて定期的に母親が様子を見に行っていたが、祖母の足腰がめっきり弱くなってきていて一人にさせておくのは心配なこと…。
もう亡くなっている祖父との思い出の家を離れたくなく部屋も空いているので、こっちにきてくれないかと祖母が希望していること…。
「両親の職場からはそう遠くはならないんだけどね…俺は逆方向になるからさ。だけど俺、祖母のこと大好きなんだ」
「もう、向こうに行く覚悟ができてるってこと?」
「うん。両親もね、行くなら早いほうがいいって」
「俺に何かできることある?」
「えっ。あ、うん…高校は変わらないからさ。いつも通りに接してくれればいいよ」
櫻井はニコッと微笑んだけど…俺にはさみしそうな表情に見えたんだ。