第75章 One Step
「…本当にあの頃から変わらないんだから」
昨夜帰りも遅かったし、色々と安心したのだろう。
ウトウトし始めた智くんの力が抜けてしまう前に、まだ少し濡れてる髪をドライヤーで乾かしてあげ、ベッドに入るよう促した。
「しょ、あり…と…」
数秒で眠りについた智くん。
両手は軽く握って顔の横にあるし、足はシルエットがひし形になってるし。
「あはは、赤ちゃんみたい」
すぅ…すぅ…と寝息をたてている可愛らしい唇にちゅっ。とキスを落とした。
「おやすみ、智くん」
『翔。俺、特別賞獲った』
あれから1ヶ月半ほど経った今日、智くんからそう連絡が入った。
『もうさ…本当にびっくりでさ』
いつになく智くんのテンションが高くなっているのがわかる。
「すごいよ、智くん」
『翔に…会いたいな』
「うん、僕も智くんに会いたい」
『まだ大学の近くにいるんだけど、今から…どこがいいかな』
「あのさ。智くん、ウチに来れるかな」
『あ、うん。翔がいいなら…』
「じゃあ待ってる」
智くんがコンテストに応募した作品が、特別賞を獲ったなんて。
作品自体はまだ見てないけど、電話越しから智くんが喜んでるのが伝わったから僕もすごく嬉しくなった。
ふぅ…。
急ではあるけど…僕だってあの日から色々準備はしたんだ。
うん、大丈夫。
きっと、大丈夫。
「智くんの好きなチーズケーキでも用意してあげようかな」
僕は急いで自宅を出た。