第75章 One Step

智くんの手が僕の頬から離れて、背中に回る。

シャワーを浴びただけの智くんの体は、湯上がりのポカポカな暖かさはなかった。

暖めてあげなきゃ。

僕も智くんと同じように、背中に腕を回してギュッと抱きしめた。

「んふふ。翔、あったかい」

「うん、あったかくなってきたね」

言葉にしたら、もっと暖かくなったように感じた。



「このまま…ベッドに行ってもいいかな…」

智くんがそう呟くのが聞こえた。

「うん」

「えっ、いい、の…？」

「うん」

「いや、だってさ…あの…」

「ん…？」

「眠る、って意味じゃなくて…」

「えっ？あっ…」

慌てる僕を見て、

「やっぱりそうかぁ」

なんて言いながら、智くんがクスクス笑う。

「だ、だって…智くんってさ、体が暖かくなると寝ちゃう人だから…」

「そうだよなぁ…翔が鈍感だったこと、すっかり忘れてたなぁ、俺」

「ご、ごめんなさい」

「んふふ、いいよ。翔のそんなとこも好きだし。それに、まだ言わないといけないことあるから」

智くんが僕をギュウッと抱きしめ、一旦体を離した。

「智くん？」

「翔」

「は、はい」

「１回しか言わないから、よく聞いて」

柔らかい声色とは裏腹な智くんの真剣な眼差しに緊張が走る。

「翔」

「はい」

「俺と…付き合ってください」

さっき既に好きだと伝えあい、キスも交わしたけど…更に嬉しさが込み上げてきた。

「智くん、ありがとう…こちらこそよろしくお願いします」

声が震えた。

心も体も震えた。

再び抱き合って、唇を重ねて。

くちゅっ…くちゅっ…

「んっ…」

「はぁ…」

僕たちは舌を絡めて濃厚なキスをした。

「恋人になったんだね」

「そうだよ」

僕を抱きしめる智くんの腕の中で胸が熱くなった。