第75章 One Step
翌朝は、メールの着信音で目が覚めた。
「ん〜っ、はぁ…」
一度伸びをした後、ベッド下に落ちていたスマホを手にとった。
えっ…。
「智くんからだ…」
どんな内容だろう…。
見たいけど見たくないような…複雑な気持ちのまま画面をタップしてみた。
“今日、時間ある?いつでもいいから連絡して”
今日なら都合がつくってことかな…?
リビングに行くと、
「さっきね、智くんが来たのよ。“昨夜はうるさくしてごめんなさい”“翔くんには後でメールするから”って」
母さんがそう教えてくれた。
「そっか…ありがとう」
僕は朝食を摂った後、智くんに今から家に行ってもいいかをメールしてみた。
“いいよ”
“これから行くね”
「いらっしゃい」
智くんはふにゃんと笑って、僕を智くんの部屋に案内してくれた。
「…智くん、お酒くさいよ」
「え〜っ、マジかぁ…テヘッ」
テヘッじゃないよ…可愛いけど。
「着替えは…」
「…してない」
「ふふっ。待ってるからさ、シャワーしてきなよ」
「…じゃあ、そうしよっかな」
智くんは渋々といった感じで着替えを用意し、部屋を出ていった。
「換気しよ」
部屋の窓を開けると、秋晴れの清々しい空気が心地よかった。
1分程で窓を閉め、部屋を見渡す。
智くんの部屋に入ったの、今年のお正月以来だな。
「あ、この写真…」
机の端にある写真たては、智くんが卒園した頃から置いてある。
そこに入っているのは、シロツメクサを持つ6歳の智くんと、シロツメクサの花冠をかぶっている4歳の僕が一緒に写っている写真。
幼稚園全体で遠足に行った時に先生が撮った写真で、花冠は智くんが作ってくれたもの。
「懐かしいなぁ」
思いにふけっていたら、
「翔?」
後ろから智くんの声がした。