第75章 One Step
濡れた髪をタオルでガシガシ拭きながら、俺の横に並ぶ智くん。
シャンプーのいい香りと濡れた髪の智くんからは色気が半端なく漂っている。
直視できないよ…。
心臓がバクバクしている俺の前に智くんの手がスーッと伸びてきたから、更にドキドキした。
智くんの手が、あの写真たてに触れる。
細くて長い指…綺麗な手してるよな…。
「これ見てたの?」
「あ、うん…懐かしいなって」
「もう何年前だっけ?」
智くんが再び髪をタオルでガシガシ拭き始めた。
「そういえばさ…んふふふふっ」
「なに?そんなに笑って」
「翔さ、花冠かぶって“お姫様になったみたい〜”ってクルクル回ってたなぁって」
「あっ…そうだった…」
今となっては恥ずかしいな…男なのに。
「可愛かったよなぁ」
「えっ…」
「誰よりも…」
智くんの声のトーンが低くなり、右手が僕の頬に添えられた。
さっきよりも何倍も心臓がバクバクする。
「翔…俺を見て」
「な、に…智くん、まだ酔ってるの…?」
「もう、酔ってなんかない」
智くんの左手が僕の右手首を掴む。
「翔、俺を見て」
どちらかというといつも穏やかな智くんの男な部分を目の当たりにして…怖くなった。
だけど…逃げたいとは思わなかった。
頬を包む手も手首を掴む手も、少し震えていることに気づいたから。
「翔…」
名前を再び呼ばれ、僕はゆっくり顔を上げて智くんを見た。
智くんの潤んだ瞳が揺れている。
「翔はあの頃から可愛かった…誰よりも…」
智くんの声色が切なげになる。
僕の手首を掴んでいた左手が離れ、右手と同じように僕の頬を優しく包んだ。