第75章 One Step
あれから3日後の金曜日の夜、外から聞こえてくる人の話し声が妙に気に障った。
「あ〜楽しい〜」「ひゃはははは」「また行こうな〜」
酔っぱらいが騒いでいるのか?
もう時計の針が真上になろうとしているのに…近所迷惑だな。
僕はベッドから出て、カーテンを10センチ程開けた。
声のする方を見てみると、智くんちの近くにいる、4つの人影。
えっ…。
見間違いであってほしかったけど…その人影の中に、どう見ても智くんがいたんだ。
そりゃあ智くんは21歳で成人はしてるけど…酔っぱらって自宅の近くで騒ぐなんて。
僕の知ってる智くんじゃないよ…。
今まで見たことのない智くんの姿が、かなりショックだった。
これ以上その姿を見ていたくなくて、カーテンを閉め始めた時。
ビクッ…
ウチの方に視線を向けた智くんと一瞬目が合った気がした。
でもその視線はすぐそらされて…僕もカーテンを閉めてすぐさまベッドに潜った。
暫くすると、外の声は聞こえなくなっていた。
時間が経つにつれて、悔しさとさみしさが沸々と込み上げてくる。
枕を握りしめる手にも力が入る。
僕との約束は先伸ばしなのに、他の人とは飲んでるなんて。
「大学が忙しいって言ってたじゃん…」
目頭は熱く、胸の奥は痛い。
頭の中では
“一段落ついたら”
智くんが言っていた言葉がぐるぐるしていた。
「未成年の僕は誘えなかったんだ。そうだ、きっとそうなんだ」
自分にそう言い聞かせるように、何度も呟いた。
そしたら…ちょっぴりだけど気持ちが楽になったような気がした。
「智くん…」
僕は枕をギュウッと抱きしめるようにして眠りについた。