第75章 One Step
僕には好きな人がいる。
近所に住んでるその人は僕より2歳上で、小さい頃から一緒に遊んだりしていた。
本当のお兄ちゃんのような、友達のような。
優しくて、かっこよくて、でもちょっぴり天然なその人に、いつの間にか恋愛感情を抱くようになっていた。
大学からの帰りに電車を降りると、大好きな人の後ろ姿が見えた。
「智くん」
「おっ、翔も今帰り?」
「うん、そう」
智くんとは違う大学に通っているし、帰りが一緒になるなんてことは滅多にない。
嬉しくて心は弾むし、足取りも自然と軽くなる。
「俺は真っ直ぐ帰るけど、翔は寄るとこあるの?」
「ううん、ない」
本当は駅前の本屋さんに行くつもりでいたけど、今は智くんと一緒にいたい気持ちのほうが大きかった。
「嬉しいな…智くんと帰るの久しぶり」
「んふふ」
可愛らしく笑うからドキリとする。
智くんのその微笑みが、僕と同じ気持ちであったらいいのに…なんて。
お互いの自宅までは10分ほど歩く。
メールのやり取りはしているけど、智くんが3年生になってからは顔を合わせる機会が減っていた。
こうして智くんと並んで歩き、腕が時々当たったりするだけでも胸が高鳴る。
「あっそうだ。近々出掛けようかって言ってた話なんだけどさ…」
智くんが言いづらそうに話しかけてきた。
「今ちょっと大学が忙しくて…一段落ついてからでもいい?」
「そっか…やることあるんじゃ仕方ないよね」
楽しみにしてたから、本当はめちゃめちゃ残念だけど…。
「ごめんな、翔」
「ううん、大丈夫」
恋人でもない僕がわがままなんて言っちゃいけないよな。
そう思ったら、今度は胸の奥がズキンと痛くなった。