第74章 バスストップ
「しょぉくんは抱きしめてくれないの?」
「しない」
俺の手は、自分の制服の裾を掴んでいる。
「ねぇ、なんで?」
「言いたくない」
「…ごめんね」
弱々しい声色とは裏腹に、俺の背中に回るあなたの手には力が込められていた。
あなたに包まれてジワ〜ッと暖まり始めた体の中に、熱が駆けめぐっていく。
いけない、止まって。
「ねぇ、部屋に戻って」
「まだこうしてる」
「智くん」
「いやだ、いやだから」
「駄々っ子じゃん」
「それでもいい」
はぁ…この人は。
「ねぇ、智くん?」
「しょぉくんと一緒にいる…しょぉくんも素直になってよ…」
あなたは顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見る。
その言葉にも表情にもズキン、と胸が痛むんだ。
俺があなたに触れないようにしてるのは・・・
あなたといる時は、見えないバリアを張ってる俺。
だけど…
一瞬でも俺が気を抜いた隙に、あなたはバリアを破ってしまうんだ。
今もこうして
「んんっ…ダメっ、さと…っ」
俺のほうが体格がいいのに、身動きできないまま…
あなたの唇が俺の唇に重ねられている。
「んっはぁ…しょぉ…」
「ダメっ、たら…っ」
俺があなたに触れないようにしてるのは・・・
気持ちが溢れて、あなたに…兄であるあなたに何をしてしまうか自分でもわからないから。
…怖い、怖いよ。
それでもいいの?
受け止めてくれるの?
こんな葛藤は何度しただろう。