第74章 バスストップ
正門前のバス停で降りる。
あなたは南棟で俺は北棟。
「じゃあね、しょぉくん」
友達らと歩み始めるあなた。
人気者なのに、それに気づいてないなんて。
チラッと俺を見て手を振るから…また胸が苦しくなってきた。
嬉しいけど…ほらね。
またあなたの友達らが俺を見てるから。
学校から帰宅したら、あの人が俺の部屋の前にいた。
「しょぉくん、おかえりぃ」
「ただいま…智くん」
横切って部屋の中に入る。
「入っていい?」
「…もう入ってるくせに」
「んふふ、入ってた」
はぁ…
心が震えてくるよ。
「何か用かな…智お兄ちゃん」
あなたを見たら、眉をピクッとさせていた。
「それダメ」
「智お兄ちゃん」
「だから、それはダメなの」
泣きそうな声になってるじゃん。
「泣くことないでしょ」
「泣いてないもん」
目尻がね、涙でキラキラしてるんだよ…。
指で拭ってあげたい気持ちをグッとこらえる。
「“お兄ちゃん”は言わないで…」
どうして“お兄ちゃん”って言ってほしくないのか。
それは頑なに教えてはくれない。
「…わかったよ、智くん」
「しょぉくん…」
俺にゆっくり抱きつくあなた。
俺は触れないようにしてるのに…
あなたはいとも簡単にそれをしてくるんだ。
狡いな…智くんは。