第72章 実りの秋
「智くん…今は…ダメ…」
「どうして?」
翔くんの首筋に口づけていく。
「料理が運ばれてくるから…」
「俺は翔くんが食べたいのに?」
「んっ…だから…あとで…ねっ…」
振り向いた翔くんが、ちゅっ。と俺の唇にキスをしてくれた。
俺の中心がズクンと疼く。
料理は美味しかったけど、俺は翔くんに釘付けだった。
翔くんの唇、喉仏の動き、美味しそうに食べる表情。
白くてしなやかな指。
そのどれもが魅力的なんだ。
食事を終えた俺たちは、大浴場へ向かうことにした。
その途中、すれ違った家族連れの荷物からタオルが落ちた。
その人たちは気づかずに進んでいってしまい、タオルを拾い上げた翔くんが追いかけていった。
翔くんが戻ってくるのをその場で待っていると、他の利用客の話し声が聞こえてきた。
“ここは、1年前から予約しないと泊まることができない”
“キャンセル待ちのリストがあるから、空きが出たからと飛び込みで予約はできない”
えっ…。
翔くんはたしか「二人部屋がちょうど空いていた」と言っていた。
だから俺は、てっきり数日前に予約が取れたのだと思っていたんだ。
翔くん。
もしかして…
1年前から予約してくれてたの?
「智くん、お待たせ」
そう言いながら俺の元に近づいてくる恋人を見て、胸が熱くなったんだ。