第70章 クリームソーダ
(Sサイド)
この店員さんは…こんな風にこぼしたりしたの、初めてなんだろうな。
俺が気づくのがもう少し早かったら…。
何だか責める気にはならなくて、大丈夫だよって安心してもらいたい気持ちのほうが勝っていた。
拭くものを取りに行く前に、店員さんが俺の方をチラッと見たから、ニコッと微笑んでみた。
店員さんの表情はまだこわばっていたけど…。
すぐにおしぼりとタオルを持ってきてくれて、俺はおしぼりで手を拭いた。
だけど、その間に店員さんはしゃがみこんで、俺のズボンの濡れた部分を拭き始めたんだ。
あまりにも一生懸命だから、声をかけづらかったんだけど…
店員さんの手が動く度に…俺の股間に…当たるんだよね…
多分気づいてないんだろうなって、暫く我慢してたけど…体は正直なんだと実感した。
やっぱり気になる人に触れられれば、それなりに反応しそうになってくるわけで…
「自分でできますから」
そう言ったんだ。
店員さんは俺が遠慮してるって思ってるのか、なかなか手を止めてくれなくて…
「あっん…」
ついに…声が…出てしまったんだ。
あぁ…もう…恥ずかしい…。
店員さんも自分の手の位置を見てやっと気づいたみたいで…俺にタオルを渡してくれた。
下腹部に人の頭があるだけでもグッとくるものがあったけど、チラッとされた上目遣いも…無意識だったんだろうけどあれはヤバかった。
店員さんが再び持ってきてくれたクリームソーダ。
シュワシュワ感が絶妙だったし、バニラアイスも濃厚でめちゃめちゃ美味しかったんだ。
このクリームソーダ好きだなぁ。
また飲みに来たい…本当にそう思った。
あの店員さんの手があくタイミングをみて会計に向かった。
だけど、レジに来たのはマスターだった。
あの人に来てもらいたかったなぁなんて…
マスター、ごめんなさい。
クリームソーダを作り直してくれたお礼を言うと“また来てください”って言ってもらえて嬉しかった。
お店を出ると、店員さんが追うようにして俺の所に来たんだ。
何度も頭を下げるから…俺はこう言ったんだ。
「それなら、また会ってください」
って。